映画『嫌われ松子の一生』
色鮮やかにテンポ良く進む、中谷美紀演じる美人の不幸話。これでもかと次々と悲劇は続くものの最後、後味が悪くないというのが驚きでした。
一番の感想としては、「自尊心が致命的に欠如していると幸せになるのは不可能に近いのだな」ということ。
ネタバレ全開で書いていくので、これから見る予定の方は要注意です。
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あらすじ
東京でミュージシャンを目指す川尻しょう(瑛太)は父親から、亡くなった叔母である川尻松子(中谷美紀)の部屋の掃除をするよう頼まれる。
松子は河原で何者かに殺され、53歳という短い人生を終えたとのことだった。
しょうは嫌々ながら、ゴミ屋敷のような松子の部屋を掃除していると、松子と関係のあった者達と出会い、松子の壮絶な生涯を聞くこととなる。
厳格な父(柄本明)の元、何不自由なく子供時代を過ごした松子。しかし大好きな父は病弱な妹(市川実日子)につきっきり。
父親に気に入ってもらいたい一心で教師となり中学校に赴任するも、修学旅行での生徒の万引き騒ぎを収めるため自分が罪をかぶり退職。家族からの縁を切られ家を出ることで、松子の人生は転落を始める。
DV男との同棲、男の自殺。ひもに裏切られ逆上、その男を殺害。次から次へと悲惨な男と付き合う松子。最後はかつて修学旅行で万引き騒ぎを起こした不良の生徒と同棲する。
やくざの一味となっていたその男(伊勢谷友介)は組織の金を盗み、身を追われ、警察に保護してもらうため再び刑務所に入る。
一途に男を待つ松子。しかし、松子を思う男は、「松子を忘れることが、松子のためだ」と判断し、出所後松子を拒絶する。
絶望した松子は、「もう誰も信じない。誰も愛さない。誰も私の人生に立ち入らせない」と引きこもり生活を始める。
そんな松子がなぜ殺されることとなってしまったのか。誰に殺されたのか。
そして、彼女の人生は本当に不幸だったのか・・・
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感想
「嫌われている」というより、良かれと思ってやることなすこと裏目に出てしまう、不器用すぎる人間の物語でした。
で、松子が幸せになれない理由って、自尊心(「自分には価値がある、愛されるに値する人間である」という実感)が致命的に欠如していることだと思います。
それは子供時代、大好きな父親の愛情・関心が病弱な妹にほとんど注がれてしまったことが原因なんですね。
親からの愛情を十分に感じず育った松子は、「とにかく愛されたい」という気持ちから、ダメな男に依存してしまいます。
「自分は価値のない人間、幸せに値しない」という幼少期に深く刻まれた価値観が、松子の願望とは裏腹に、潜在意識レベルで不幸になる道を選び続けたと思えて仕方がありません。
だって、不幸のスパイラルから抜け出るチャンスはしっかりあったんですから。
ひも男を殺害して服役した刑務所で出会った、親友めぐみ(黒沢あすか)が何度も手を差し伸べていました。
しかし、信頼しあえるパートナーを持つ親友への嫉妬から、差し伸べられた手を振り払う松子は、自ら幸せを拒絶しているように感じました。
引きこもり生活の中夢中になったアイドルにファンレターと称する自分史を、ポストに入らないほどの分厚い量書いているシーンは、気持ちが重くなりました。
「誰か私のことを理解して、分かってほしい」という悲痛な心の叫びのように感じて。
ラストネタバレ
それでも、偶然病院で再会した親友に一緒に仕事をしようと声をかけられ「やれるわ、私まだやれる」と死ぬ直前に人生に対し希望を抱いていたことが唯一の救いでした。
夜遅いから帰るように注意した河原の中学生達に殴り殺されるというのは、あっけなかったですけどね・・・
そして最後の最後、松子が実家の家族に「おかえり」と笑顔で迎えられるシーン。やっぱり松子が1番欲しかったのって、家族からの愛だったんでしょうね。
切なくも愛おしいラストでした。
松子の人生は果たして不幸だったのか・・・幸せの定義なんて人それぞれなので、見る人によって変わるのだと思います。
幸せな人生とはとても思えませんが、自分の人生を全力で精一杯生きた松子は、決して不幸ではないと僕は思います。
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