第二十回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作、『かにみそ』を読みました。
ホラーが好物の僕は、映画だけでは物足らず、ホラー小説にまで手を出し始めました。
ちなみに倉狩聡さんの作品は初めて。
そんでもって、とてもホラー小説だとは思えないゆるくて可愛い表紙に、美味しそうなタイトル。
舐めてかかりましたが、内容はなかなかグロい。にも関わらず、ほろっと切なくなるラスト。
というわけで、大満足のホラー小説でした!
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小説『かにみそ』あらすじ
実家でパラサイト生活を送る無気力なニートの「私」は、ある日海岸で小さなカニを拾って帰る。
そのカニは会話ができ、何でも食べるし、食べる量も底なしだ。
カニの食事代を稼ぐために働きにでた「私」だったが、職場で出会った彼女を衝動的に殺してしまう。
「食べるかな、これ」
彼女の死体の元にカニを連れて行くと、「遠慮なく」と美味しそうに食べるカニ。
人間の味を気に入ったカニを満足させるため、カニと一緒にえさ(人間)を狩り始める・・・
小説『かにみそ』感想
怪物であれ巨大生物であれ、人間が食われる話は星の数ほど存在するわけですが、カニという生物をチョイスするセンスが光ってます。
主人公の「私」が拾ったカニは元々、海岸の砂に含まれるプランクトンや有機物をこしとって栄養を吸収し、その残りかすを団子状にして捨てているんです。
その姿に魅了され、「私」はカニを家に持ち帰ります。
で、何をあげていいかわからず、とにかく何でも与えてみたと。
すると何でも食べる。鶏肉でも魚肉ソーセージでも何でも食べる。量も半端なく食べる。
衝動的に殺してしまった彼女のことも、当然食べます。
で、これが怪獣だったり巨大生物だったら、バリっとあっけなく食べるわけですが、カニは違う。
砂から栄養だけ吸収するのと同じように、人間の体から栄養だけこしとる、この描写が生々しくて思わず「おえ」と心でつぶやいてしまいます。
なるほど、ここで人間を襲うのがカニであることが生かされているのだと実感。
映像にしたらトラウマレベルですよ、このシーン。
で、直前まで自分と体を重ねていた彼女を、カニが美味しそうに食べる様子を見て興奮する「私」
はい、もはや主人公は変態サイコパスです。
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そこから、カニを喜ばせるため次々と町中の人間をこっそり食べさせ、その様子に魅了される「私」
もう、一人と一匹は恋人みたいになっていきます。
映画館で暗い中、1番後ろの席から前の席の男性を食べさせるシーンなんかちょっとイヤらしくなっちゃってますから。
「・・・いいのぉ?こんなとこで・・・」
「ああ、早く」
「こんなに興奮したの初めて。ふふ、誰にも見られてない?」
食べられちゃった男性も、最初カップルがいちゃついてると勘違いして舌打ちするぐらいですからね。
そんなちょっと際どい関係で次々と人間を狩る一人と一匹。
そんな日々の中、周りの人との関わりの中で、自分のしていることの罪深さに気づき葛藤しだす「私」
カニを食べて始末しなければならないと苦しむ「私」を、理由を知ってか知らずかハサミで背中をさすっていたわってくれるカニ。
そこからのラスト。ただただ切ない・・・
「ぜんぶ食べて。おまえに食べられるなら、悪くない。だってこのままじゃいられないからさ・・・生きることは食べることだよ。そうでしょ?」
そう言って自ら熱湯に飛び込みボイルされるカニ。
そのカニをむしゃぶって食べる「私」
カニが人間を食べるのを残酷だと思ったけど、これって人間が他の生物にしていることと同じなんですよね。
自分ひとり生きるためにも、数え切れないほどの生物が殺生されている。そんなことを意識させられた作品でした。
最後に
恐怖や葛藤の心理の推移が丁寧に描かれているのも、映画では味わえない小説の醍醐味ですね。
この話が映画だったらグロすぎて絶対見れないですが、文字による描写だと難なく読めるのが小説の良いところ。
それでも食事前や寝る前は刺激が強すぎるのでやめた方がいいです。
『かにみそ』を読んで、カニが食べたくなる人と食べたくなくなる人に分かれそうだけど、僕は食べられない派です。
思いだしちゃうと思うんですよね。
とか言いながら、いざ美味しそうなカニを目の前に出されたら、夢中になって食べるだろうけど(笑)
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