小説『ちょっと今から仕事やめてくる』は会社辞めたい人への優しい処方箋(感想)

小説『ちょっと今から仕事やめてくる』読了。

主人公の勤めるブラック会社がひどすぎますね・・・

もちろん物語に出てくる会社は実在しないですが、実際同じようなブラッキーな会社があるんでしょうね。恐ろしすぎる(泣)

閉ざされた空間で、上司から人格を否定するような罵倒を受け続け、「自分は社会のゴミだ。ここを辞めたらどこも自分なんか雇ってもらえない」と心壊れていく主人公・隆。

完全に洗脳ですね、日本のブラック企業、改めてやばし。

『ちょっと今から仕事やめてくる』あらすじ

ブラック企業に勤める隆は心身ともに疲弊し、もうろうとした意識のまま線路に飛び込もうとすると、「ヤマモト」と名乗る男に助けられる。

隆の同級生だというヤマモト。すぐに打ちどけ心を開くも、本物のヤマモトは全く違う人物で、海外にいるということがわかる。

なぜ見ず知らずの自分を気にかけるのか?ヤマモトの正体は?

気になった隆は、ヤマモトの素性をネットで調べるが、出てきたのは三年前に激務のすえ自殺した男の記事だった・・・

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『ちょっと今から仕事やめてくる』感想

一週間の歌がえぐい・・・

入社1ヵ月目に、現実逃避のために主人公の隆が作った「一週間の歌」がこちら↓↓

月曜日の朝は、死にたくなる
火曜日の朝は、何も考えたくない
水曜日の朝は、1番しんどい
木曜日の朝は、少し楽になる
金曜日の朝は、少し嬉しい
土曜日の朝は、1番幸せ
日曜日の朝は、少し幸せ。でも、明日を思うと一転、憂鬱。以下、ループ

完全に「サザエさんシンドローム」の末期症状ですね(汗)

冒頭では日を追うごとに隆の精神が崩壊していく様子が描かれています。

毎日の上司の罵倒、朝から深夜までの労働に加え、帰宅しても容赦なくなる会社からの電話。

やめたい。でも、入社して半年でやめたら社会人として通用しなくなってしまう、という恐怖心だけでブラック会社に奉公する毎日。

気づけば無意識に電車のホームに身を預ける・・・

追い詰められていく描写が生々しくリアルで、読んでいる側も辛いです。

同じようなブラック会社に勤める人が読んだら共感しかないかもしれません。いや、そもそもそういう人は小説を読む余裕すらなさそうだけど。

全社会人に届けたい、「ヤマモト」のセリフ

電車のホームに飛び込もうとする隆を危機一髪、助けてくれたのが「ヤマモト」でした。

自称同級生のヤマモトは、仕事で行き詰っている様子の隆に「仕事変えたら?」と何度も天職をすすめます。

同じくらいの順位のチームでも、全く点を取られへんかった選手が、チームを移った途端、大活躍する場合だってあるやろ。それはそのチームが選手に合ってるからや。

言いかえれば、前のチームがその選手には合わなかったんや。人と同じで、職場にも相性ってもんがある。動くことには確かにリスクもあるけど、現状を変えるのが難しいなら、動いてみるのも有効な手段やねんで

それでも他の会社で正社員になる自信のない隆は同じ会社で働き続けます。

そんな隆にヤマモトは営業の仕事のコツを教えたり、明るい色のネクタイを選んであげたり支えるうちに、隆の営業成績も上がってくのですが、大型契約を取れそうって時に先輩に横取りされて失敗。

120%先輩が悪いのに、「やっぱり俺は社会のゴミだ」と再び自殺を図る隆に自殺を思いとどまるようにヤマモトが語りかけます。

お前の人生は、半分はお前のためと、あとの半分は、お前を大切に思ってくれてる人のためにある

なあ、隆。お前は今、自分の気持ちばっかり考えてるけどさ。一回でも、残された者の気持ち考えたことあるか?なんで助けてあげられなかったって、一生後悔しながら生きていく人間の気持ち、考えたことあるか?

ヤマモトのこの訴えに隆は自殺を思いととどまります。

「俺は自分のことしか考えてなかった」と反省した隆は、実家に電話をし、「会社を辞めるっていったらどう思う?」と母親に聞いた答えがまた素敵です。

「別にいいんじゃない?会社は世界にたった一つじゃないんだから」

「大丈夫よ。人生なんてね、生きてさえいれば、案外なんとでもなるもんよ」

「東京の美味しいケーキが食べたいから買って帰ってきて」と実家に帰る口実を明るく作ってくれる母親の愛情にじわっときます。

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ヤマモトの正体

以下、ネタバレ含みます。

 

ヤマモトが見せてくれた身分証明書には、ヤマモトの顔に「山本純」の文字。

「山本純」をネットで調べると、3年前に激務のすえ自殺した人物であることが発覚。

「あいつは死んでいるのか?ってことは、幽霊?」と途中一瞬ホラーチックに話は展開しますが、当然幽霊なんかじゃなく。

隆と一緒にいる「ヤマモト」は、3年前に自殺した山本純の双子の兄弟で、本名は山本優。

3年前に双子の兄弟である山本純を救う事が出来なかった後悔から、同じようにうつろな顔をしていた隆を救おうとしていたことが判明。

隆に自分を「純」の名前で呼ばせなかったのもこういった理由からだったんですね。

このことを知った隆は、山本の思いに救われ、会社を辞める事を決意。

「ちょっと仕事やめてくる」と山本をカフェで待たせ、会社へ向かいます。

仕事をやめることを「たいしたことじゃない」と言う隆。何かこう、ようやく幸せに目覚めたようですがすがしいです。

上司に「会社を辞めます」というと案の定、「負け犬」「そう簡単に仕事は見つからないぞ」とまくし立てる上司。

それでも堂々と上司に言い放つ隆の言葉が爽快です。

負け犬、負け犬って、一体何を指して負けなんだよ。人生の勝ち負けって他人が決めるものか?そもそも人生は勝ち負けで分けるものなのか?じゃあ、どこからが勝ちで、どこからが負けですか。自分が幸せだと思えたら、それでいいでしょう。僕はこの会社にいても自分が幸せだとは思いません。だから辞める。ただ、それだけです。

簡単じゃなくてもいい。むしろ簡単じゃいけないんです。僕はこの会社を簡単に選びすぎた。時間をかけるのが怖くて、内定もらえりゃどこでもいいなんて、仕事なんてそんな気持ちで決めるもんじゃなかった。次は本当にやりたいことをみつけますよ。時間がかかったっていい、ステータスなんてなくたっていい。たとえ無職になったって、最後に自分の人生、後悔しないような道を見つけてみせますよ

実写かされた映画のほうでは、主人公があまり強く上司に言っていなかったので物足りなかったのですが、小説では僕の頭の中の勝手なイメージも手伝って、強気で堂々とした隆のきれっぷりが堪能できました。

自分の自由な想像通りに登場人物たちをイメージできるのが、小説の醍醐味ですね。

結末は映画のほうが好き

裏切り者の先輩が映画では女性だったり、小説にはない主人公の土下座シーンがあったりと、細かい違いは所々ありますが、1番大きな違いはやはり結末です。

小説では、2人とも心理カウンセラーとなり、山本を追う形で隆が山本と同じ職場に新人カウンセラーとして再会するという結末。

映画では、発展途上国で子供たちの支援活動をする山本の元に主人公がやってきて再会するという結末でした。

小説の心理カウンセラーになるのも素敵なんですけどね。

僕は、会社を飛び出すだけでなく、日本すらも飛び出していく爽快感がたまらなく好きなので、映画の結末の方が好き。

それでも小説の方がセリフが心に染み渡ってくるように感じたので、内容を知っていても原作面白かったです。

働きすぎて辛そうにしている人がいたら、すっと差し出したい一冊です。

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