『コンビニ人間』主役の恵子は新時代の勝ち組(あらすじ感想)

小説『コンビニ人間』を読みました。

150ページぐらいで内容も読みやすい話。が、けっこうえぐいセリフが多い印象。

個人的にラストはわりとすっきりしましたが、そこまでが精神的にきつかったです。

特に30代の独身女性やアルバイトで生計を立てている30代の方は、人によっては精神的ダメージは大きいかも。

主人公の女性は現代の日本の中では異質なのかもしれませんが、僕は生き方として潔くて素敵だと思います。

むしろ正社員だとしても人生で特にやりたいこともなく日々の生活をなんとなく惰性で生きている人より、主人公のような生き方のほうが死ぬ時後悔しないんじゃないかな。

そもそも、「就職も結婚もしていない人間は異常」みたいな考えが異常だと感じました。

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『コンビニ人間』あらすじ

コンビニのアルバイトで生計を立てる主人公・古倉恵子は、恋愛経験も結婚願望もない。

子供の頃から自身の言動に回りは困惑していたことから、自分は普通ではない「異物」であると自覚し、周りの人間を真似て「普通」を演じる毎日を送っていた。

恵子自身は何も問題を感じていないが、就職も結婚もしていない恵子に対して周りの人間は「就職か結婚はした方がいい」と執拗に言ってくる。

ある日、恵子の勤めるコンビニに、白羽という30半ばの男がアルバイトに入ってくる。

「コンビニで働く人間は底辺の人間」と同僚や店長をバカにする白羽は、結婚相手を見つけるためにアルバイトに入った事を恵子に明かす。

結婚をすれば周りから変に思われることもなくなると考えた恵子は「婚姻だけが目的なら、私と婚姻届を出すのはどうですか?」と白羽に提案するが・・・

感想

まずね、恵子のキャラでど肝を抜かれます。

子供のころのエピソードで驚き。

道端に死んだ鳥を他の子ども達が泣いてかわいそうと言っている中「今日、これ食べよう。お父さん、焼き鳥好きだから」とか、

男の子同士がケンカしていて「誰か止めて!」と声がかかる中、スコップで男の子を殴る事でケンカをやめさせる、とか。

恵子自身、合理的に考え行動しているだけなのですが、周りは驚くわけですよね。当然ですけど(笑)

ただ、恵子の考えに「なるほど」と関心したのが、死んだ鳥に花を添える人たちの行動を見て恵子が心でつぶやいた言葉↓(本より引用)

皆口をそろえて小鳥がかわいそうだと言いながら、泣きじゃくってその辺の花の茎を引きちぎって殺している。

確かに!って思いません?

死んだ鳥を哀れみながら、植物という生物を殺す。恵子、するどい。

極端に合理的な思考ゆえに、周りから異質な存在として見られてしまう恵子。

両親が自分のことで悩んでいるのをみて「自分は何かを治さなければいけない人間なんだ。でも何を治せばいいかわからない」と密かに悩む恵子。

そして、そんな恵子の生きるより所となっていたのがコンビニ店員としての自分でした。

その時、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。

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時は過ぎ、30半ばで就職も結婚もしない恵子に、周りの同級生は引いている様子。

同級生やその旦那が目の敵みたいに恵子に言うんですよね。「就職か、それが出来ないなら結婚した方がいい」って。

読んでて、同級生達がうっとおしかったです(笑)

同級生の旦那まで口からつば飛ばしながら恵子に婚活しろしろ言うんですが、あんな人いるのかな?

僕ね、最近思うんです。人の生き方にどうこう口出す人って結局自分の人生に不満だらけなんじゃないかって。

「自分は色々妥協して我慢して社会の見えないレールに乗っているのに、それをやらないあなたは気に食わない」みたいな、ある種の嫉妬なんじゃないかって勝手に思ってます。

そんな中で新しく入って来たアルバイトのクズ男・白羽。

この白羽のセリフは世の女性を敵に回しますね。作者が女性だから許されるようなセリフのオンパレード。

例えばこれ↓↓

僕はずっと復讐したかったんだ。女というだけで寄生虫になることが許されている奴等に。僕自身が寄生虫になってやるって、ずっと思ってたんですよ。

どうですか、このクズ男っぷり。

腹立つのを通り越して、残念ですね。中二病をこじらせた感じ。

そんな白羽と、周りからとやかく言われないためだけに同棲する恵子も恵子ですが(笑)

本当の勝ち組は、恵子だと思うのです

勝ち組・負け組みって二分論は好きではないのですが、分かりやすいのでこの表現で。

非正規雇用で独身30代。この小説の世界では負け組みの枠に入れられてますが、僕は恵子みたいな生き方こそ勝ち組だと思いました。

そう思ったのがこのセリフ↓↓

私は人間である以上にコンビニ店員なんです。人間としていびつでも、たとえ食べていけなくて野たれ死んでも、そのことから逃れられないんです。私の全細胞が、コンビニのために存在しているんです。

(中略)

私は、コンビニ店員という動物なんです。

野たれ死ぬ覚悟を持てるほど情熱を注げる仕事が出来るって、もうそれだけで人生勝ち組だと僕は思います。

多すぎる選択肢ゆえに「やりたいことがわからない」という若者が数え切れないほどいる中、自分の全細胞がこの仕事のために存在しているって思えることがあるって素晴らしいですよ。

すがすがしくてかっこいい。何だか応援したくなるのは僕だけ?

それに、これだけコンビニに精通していたら今の時代「コンビニ評論家」なんていって活躍出来そうですけどね。

読む人を選ぶ小説ではありますが、一読の価値はあると思います。

僕は正直、一度読めば十分て感じでしたが、文章の表現が独特で面白く、読んで良かったです。

それでは、また(^^)

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